『和漢三才圖会』より蛙(あまがえる)(2019年1月号)
■江戸時代の百科事典『和漢三才圖絵』より「蛙(あまがえる)」
昨年11月号から連載している『和漢三才圖会』、今月は巻第五十四湿生類より「蛙(あまがえる)」(←コマ番号284をご覧下さい)をご紹介します。前回も「蝦蟇」と書いて「かえる」と読みましたが、今回も「蛙」一文字で「あまがえる」と読みます。
■「蛙(あまがえる)」とは
鼃(わい・あ)[蛙に同じ] 長股(ちょうこ) 青鶏(せいけい) 坐魚 田鶏(でんけい) 蛤魚(こうぎょ)
[和名は阿末加閉流]
『本草綱目』(虫部、湿生類、鼃)に次のようにいう。蛙は蝦蟇に似ていて、背は青緑色。尖った嘴(くちさき)、細い腹で、後脚は長い。それでよく躍(はね)る。よく好んで坐る。それで坐魚といい、俗に青蛙という。その名のとおりの鳴き方をする。大きいときは蛙(ワアア)と聞こえ、小さいときは蛤(カツ)と聞こえる。古(むかし)は普通にこれを魚のように食べた。肉味[甘、寒]は鶏のようである。ところで脰(うなじ)で鳴くものは鼃黽の属で、農民はその声の早晩・大小を占って、それで豊作か凶作かを卜(うらな)う。蛙はよく化して鴽(ふなしうずら)[鶉の属]となる、と。
△ 思うに、蛙は蝦蟇のようで小さく、背は青緑で腹は白く、大きなものでも一寸半にしかすぎない。雨が降りそうになると鳴くので、雨蛙という。世間の言い伝えでは、蛙は変じて守宮(やもり)となる。変じると屋壁を抱いてあえて動こうとはせず、雨露をのまず、三旬ばかりで色が変り、尾が生え、そうなると動いてどこかへ行ってしまう、という。
青蝦蟇 俗に土鴨[和名は阿乎加閉流(あをがえる)]という。大きくて背は青く、鳴き声は大へんいさましい。『爾雅(じが)』に、「水にいるのを黽(あおがえる)という」(釈魚)とあるのがこれである。
金線蛙 青蝦蟇に似ていて背に黄路(きすじ)がある。
黒蝦蟇[和名は豆知加閉流(つちがえる)] 黒色のもので、南人は蛤子という。食べると至って美味である。それで佳饌(かせん、立派な料理の意味)とする。つまり今でいう水鶏(かじか)がこれである。
赤蝦蟇 △思うに、赤蝦蟇は『本草綱目』に載せていない。けれども川沢にいる。体は痩せて浅赤色。五疳(ごかん、肝疳・心疳・脾疳・肺疳・腎疳)の薬に入れると効があるという。ただし稀にしかいないので、手にいれにくい。
■ちょっと解説
最初に出てくる蛙(あまがえる)の異名は、本文中で触れているように、見た目、味に由来しています。鶏とつくくらい、蛙の味は鶏によく似ているとか。坐っているから「坐魚」というのも面白いネーミングです。
鳴き声の種類「蛙(ワアア)」と「蛤(カツ)」は、あまがえるの普段の鳴き声(広告音)と雨鳴き(レインコール)の違いを指しているのではないかと思います。
また蛙(あまがえる)が守宮(やもり)に変化するというのも面白い伝承です。