『和漢三才圖会』より田父(へびくいがえる)(2019年3月号)
■江戸時代の百科事典『和漢三才圖絵』より「田父(へびくいがえる)」
昨年11月号から連載している『和漢三才圖会』、今月で最後となります。今回は巻第五十四湿生類より「田父(へびくいがえる)」(←コマ番号285をご覧下さい)をご紹介します。
■「田父(へびくいがえる)」とは
田父(へびくいがえる・テンフウ)[音は論(リン)]
[閉比久比加閉流]
『本草綱目』(虫部、湿性類、田父)に次のようにいう。田父とは蝦蟇(がま)の大きなものである。よく蛇を食べる。蛇は逐(お)われるとほとんど逃れ去ることはできない。田父が蛇の尾くわえ久しくたつと蛇は死ぬ。尾の後ろ数寸のところで、皮は損じないで肉をたべ尽す。『文字集略』に、虫侖(*注記:漢字がないので虫偏と侖を並べてますが、本来は一つの漢字)とは蝦蟇である。大きさは履(くつ)ぐらいでよく蛇を食べる、とあるのはつまりこれである。ところで蛇は鼠(ねずみ)を呑むが、蛇を食べる鼠がある。蛇は豹(ひょう)を制するが、蛇を食べる豹がある。とすれば田父が蛇を圧伏するというのもまたこの類で、怪しむに当たらないことである、と。
△思うに、『説文』に虫侖[音は倫]とは蛇の類で黒色。神泉に潜んでいてよく雲雨を興(おこ)す、とある。前の節とは異なっているが、同名異品であろうか。まだよく分からない。
渓狗(けいこう)[乎奈加加閉流(をながかへる)] 南方の渓澗(たにま)の中にいる。状は蝦蟇に似ていて、尾の長さは三、四寸である。
山蛤(さんこう) 山石の中にいる。蔵蟄(あなごもり)は蝦蟇に似ているが、大きくて黄色をしている。よく気を呑み、風露を飲み、雑虫を食べない。山人はこの山蛤を食べるが、これはよく疳疾を治す。
■ちょっと解説
田父、恐るべし。ネットで検索すると、けっこうカエルが蛇を呑む画像や動画がヒットします。『本草綱目』でわざわざ「田父」という項目があるように、昔は天敵を食べる蛙は、普通の蛙とは別と考えられていたようです。確かにカエルの習性として、口に入る大きさなら(長さは関係ない?)何でも食べてしまうので、ちょっと身体の大きなカエルなら田父となり得るでしょう。
豹が蛇を恐れると言うのは、『和漢三才圖絵』の獣類・豹(コマ番号21)の項目にも記されていました。ということは、中国の『三才圖絵』にも記されていたことであり、理由は分かりませんが俗説として広く伝わっていたのだと思われます。