かえるの学校

井戸尻考古館(2) @ 長野県諏訪郡富士見町(2022年12月号)

多彩な蛙文のバリエーション

先月号では、「なぜカエルをモチーフにしたのか」と「蛙文」のある土器をご紹介しました。
今月号ではいくつか存在する蛙文のバリエーションをご紹介します。

菱形蛙文

当時の土器クリエイターの誰かが、造型をおこなっている内に文様をよりシンプルに、もっと簡素にシンボライズしようと思ったのかどうか定かではありませんが、「カエルなんぞは菱形でええやん。うん、なんかカエルっぽい! いやもうこれは絶対カエル」ということで「菱形蛙文」です。カエルの胴体を表しています。カエルの背中線のように、菱形の真ん中に線が入っているのも特徴です。
  

半人半蛙(はんじんはんあ)

今度の土器クリエイターは、土器を作っている内に何を思ったのか、「カエルと人を融合させたら面白いんじゃね?」と、蛙文なのに人っぽく見える「半人半蛙」のバリエーションを爆誕させました。頭部が丸く胴体が細長くなっているあたりが「人」パーツ、手足が長いのが「カエル」パーツではないかと思います。2枚目の写真に至っては、カエルパーツばかりが目立って、素人目には区別がつかないです。展開図を添えてますが、裏面はたぶん一般的な蛙文だと思います。
先月号でもお知らせした通り、こちらの収蔵品はほとんどが写真撮影可ですが、一部撮影できない収蔵品がありました。それが重要文化財に指定されている「半人半蛙文有孔鍔付き」の土器です。 やはり頭部が丸く、胴体はカエルのように膨らみ、長い手足がついた文様となっていました。画像は井戸尻考古館のブログで見ることができます。
 
 

蛙文・みづち

お次の土器クリエイターは「芸術とはもっと自然に目を向け、そこからモチーフを得るべきだ」と、これまたそんなことを考えていたかどうかは知りませんけど、ともかく土器にもっと神性をつけようと考えたのか、蛙文と共にあらたな想像上の生物を土器の文様として用いました。その生物は、他の事例から水棲生物を表す古語の「みづち」と仮称しているそうです。
  

蛙文・蛇文

「あーっ! カエルが喰われてる。ん? まてよ。ということはこれってさらなる再生ってことに繋がるのか?」と、またもや妄想を垂れ流していますが、カエルの天敵である蛇といっしょにした土器もあるのです。真ん中がカエル、両脇のにょろにょろが蛇だと思われます。

その他の収蔵物

当時の個性あふれる土器クリエイターが生み出した作品は、こうした蛙文のあるものに限らず、身の回りのあらゆるものに目を向けたものがたくさんあります。
とりわけ有名なのが、「水煙渦巻文深鉢」でしょう。ある程度年齢のいった方なら見覚えあるのではないでしょうか。この土器は、1972(昭和47)年から4年間、郵便はがきの「料額印面」の絵柄に採用されたのです。渦巻きの表現の見事さ、さらにそれを用いて輪を作るデザイン性、胴体部の繊細な文様、これを作ったのは当時の土器クリエイターの中でもトップクラスの芸術性と技術の高さをもっていた人なのでしょう。ほかにも土偶なども出土しています。
しかし忘れてはならないのが、これらの土器が一部は祭祀用もあったかと思いますが、大半が普段使いされていたことです。生活の中にとけこむ「祈り」がこれら土器の文様なのかもしれません。

蛙文のことを正しく知りたい方は、ぜひ井戸尻考古館を訪れてください。受付で声をかけたら、係の方が資料の説明をしてくださいます。また周辺のロケーションも美しく、遺跡のまわりには水車小屋もありました。富士見町の名の通り、富士山も見えます。併設の歴史民俗資料館もぜひどうぞ。
  
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