クラス便り8月号

続カエル受難 
校長:「先月に引き続き、まだ怒ってるよ!人間様、酷い、酷すぎる。自分たちの興味を満足させるために、とんでもないことをなさった!」

教頭:「校長は、暑さで怒りが倍増していうようです。で、いったい何があったというのです?」

校長:「近頃人気の、安倍晴明だよ。彼にまつわる話の一つで、とんでもなくひどい出来事があったんだ」

教頭:「安倍晴明?陰陽師ですね」


今月から新しいデジカメです

校長:「ぼく、晴明」
教頭:「私、博雅」
校長:「そう、小説や映画、漫画でも彼が式神を使うことはよく知られているが、そうした力を見てみたいと思うのは、今も昔も変わらない。ってことで、『今昔物語 巻第二十四 本朝附世俗』にて、「安倍晴明、随忠行習道語(安倍晴明、忠行に随ひて道を習ふこと)第十六」を見てみよう。

亦、此晴明、広沢の寛朝僧正と申ける人の御房に参て、物申し承はりける間、若き君達・僧共有て、晴明に物語などして云く、「其識神を仕ひ給ふなるは。忽に人をば殺し給ふらむや」と。晴明、「道の大事を此現にも問ひ給ふかな」と云て、「安くは否不殺(えころさじ)。少し力ダニ入てまつらへば必ず殺してむ。虫などをば、塵許の事せむに、必ず殺しつべきに、生く様を不知ば(しらねば)、罪を得ぬべければ、由無き也」(後略)

:またこの晴明は、広沢(地名)の寛朝僧正というひとの住まいにうかがい、話を承っているときに、若い公達と僧たちが晴明と雑談をして、「式神を使われるそうですが、たちまちに人を殺しなさるのか」と質問した。すると晴明は「陰陽道の大事を、あからさまに質問なさるものだな」と言い、「かんたんには殺せません。少し力をいれてやれば必ず殺せます。虫などはちょっとしたことで必ず死ぬので、蘇生させて生かす方法を知らなければ、きっと殺生の罪を得るに違いないので、理由無しにはできません」

とまあ、こういう話があるわけだ」

教頭:「ふむ、若い人たちにありがちな、恐い物見たさの発言ですね。晴明は怒っているようですね」

校長:「そう、そしてこう続く。

庭より蝦蟆(かへる)の五ツ六ツ許踊つヽ、池の辺様に行けるを、君達「然は彼レ一ツ殺し給へ。試む」と云ければ、晴明、「罪造り給君かな。然るにても、「試み給はむ」と有れば」とて、草の葉を摘切て、物を読様にして蝦蟆の方へ投遣たりければ、其の草の葉蝦蟆の上に懸ると見ける程に、蝦蟆は真平に(ひしげ)て死にたりける。僧共此を見て、色を失てなむ恐ぢ怖れける。

:庭よりカエルが5,6匹跳ねながら池の辺に行くのを、公達は「それではあれを1匹殺して下さい。試してみよう」と言うと、晴明は「罪をお作りなさる方だなぁ。それでも「試してみたい」とおっしゃるならば」と、草の葉をちぎって、何か唱えるようにしてカエルの方へ投げやると、その草の葉がカエルの上にかぶさったと見えたとたん、カエルはぺちゃんこになって死んでいた。僧達はこれをみて、真っ青になってひどくこわがった。

と、こういう結末だ」

教頭:「カエル…気の毒です。なんでこんな目に遭わねばならないのか(号泣)。それに若者達も、ビビるくらいなら、最初からやめときゃいいのに」


校長:「ぐはぁ」
教頭:「うわぁ〜ん」
校長:「実はこれと同じ話が、『宇治拾遺物語』の127段にもあるんだ。細部の描写がちょっと違うけどね」

教頭:「しかし、晴明は「生く様を不知ば(しらねば)、罪を得ぬ」と言っているし、このあとちゃんと蘇生させたんでしょうね?」

校長:「…………。いや、やっぱり知らないからこそ「由無き也」、理由もなくできません、なんだろうな」

教頭:「えぇーっ!ぺしゃんこのまま?」

校長:「ということで、カエルにとっては人間様が一番恐いことが、よぉーくわかっていただけたところで、また来月!」

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