クラス便り12月

今月は、「学級日誌」に寄せられた質問への回答です。
質問「どうしてカジカガエルを”金襖子”と言うのですか?その語源を教えて下さい」
教頭:「今回の質問は、大阪府にお住まいの「よしおか まや」さんからいただいたものです。よしおかさんにはメールにて回答させていただきましたが、いい機会(=ネタ)なので「クラス便り」にてみなさんにも御披露いたします」

校長:「しかし、まずもって読み方からわからんのだがね?」

教頭:「これは「きんおうじ」と読みます。金の字は錦とも書きます」

教頭:「日本における文例としては『胆大小心録』(上田秋成の随筆)152より

 「6・7月の間山谷に鳴きて、声清亮たりと云ふ。又味水鶏(くいな)に同じとは、食品にする事西土の常なり。石鶏又錦襖子とも云ふとぞ」

というのがございます。ここではカジカガエルを錦襖子ということの他、西土(中国)ではカエルを食す習慣があることにも言及されてます」

校長:「何!?カエルを喰うだと?そう言えば、以前「日本初のカレー」について調べたとき、中国でそういう習慣があることを知ったっけ」

教頭:「そうでしたね。あと文例ではありませんが、長塚節の短歌の題にも出てきております。

二十八日、清澄の谷に錦襖子(かじか)を採りてよめる歌八首のうち

萱わくるみちはあれども淺川と水踏み行けばかじか鳴く聲
黄皀莢(さるかけ)の花さく谷の淺川にかじかの聲は相喚びて鳴く
鮠の子の走る瀬清み水そこにひそむかじかの明かに見ゆ
我が手して獲つるかじかを珍らしみ包みて行くと蕗の葉をとる
かじか鳴く谷の茂りにおもしろく黄色つらなる猿かけの花
さるかけのむれさく花はかじか鳴くさやけき谷にふさはしき花

というのがそれです」

校長:「ふむふむ、しかしこれらからは「カジカガエル=錦(金)襖子」ということはわかるけど、語源というのとは違うね」

教頭:「ええ、ですからここはやはり中国の書物を調べる必要があるのです。

『本草綱目 蝦蟇』
集解、呉瑞曰、長肱石鶏也、一名錦襖子、六七月山谷間有之、性味同水鶏。

『本草綱目」とは中国の百科事典みたいなもので、これで蝦蟇の項目をみてみますと、「注釈、呉瑞の説によると、長肱(=蝦蟇)の仲間の石鶏(=かじか)は、一名を錦襖子と言う。6・7月の山谷にいて、水鶏と同じ味がする」と書かれております。当時はカジカガエルを蝦蟇の仲間としておりました。しかし現在の分類では、カジカガエルはアオガエル科に属しております」

校長:「う・・・やっぱり我々を食べるのね。それはさておき、これは先程出てきた『胆大小心録』とよく似てるね。ということは、上田秋成はこの『本草綱目』の記述を参考にしたってわけか」

教頭:「ええ、おそらくそうでしょう。さて、次は『大漢和辞典』をひもときましょう。ここで「錦」で調べてみると・・・

「錦襖子」(キンアウシ)
 蟲の名。かへる。がま。又、かじか。金襖子。蛙の皮。
[書言故事、水族類]蛙皮、錦襖子、尚書故實、越人以蝦蟇為上品、疥者皮最佳、故越人云、不可脱去、此乃錦襖子

とありました」

校長「うえっ、また漢字だらけでわからんじゃないか」

教頭「簡単に訳してみますと、「蛙の皮、錦襖子である。故実によれば、越(中国古代の国の名前)の人は蝦蟇の皮をもって上等の品とした。でこぼこした皮が最もよいものである。それ故越の人曰く、(まるで錦のように)脱ぎ去ることはできない(逸品だ)、と。これがすなわち錦襖子である」となりますね。なお「書言故事」とは中国宋代に故事成語を集積・分類した書物のことです。つまり、古代中国の越に住む人々が、蝦蟇の皮を錦の上着のようだと言ったことが語源となっているのです。なお、錦襖とは、錦の上着をさしております」

校長:「ああ、『本草綱目』で書かれていたように、蝦蟇とカジカガエルは同類と見なされていたから、この「書言故事」の蝦蟇はカジカとみても差し支えないわけか」

教頭:「ですね。しかしこれが蝦蟇さんとしてもカジカガエルだとしても、失礼ながら錦の上着ってほどのもんじゃないように思いますがね」

校長:「うーん、そうだね。だけどカジカガエルの声はとてもキレイだし、そういう部分も含めて錦の上着のように価値有る存在と思われたのかもしれないよ」

教頭:「案外そうかも知れませんね。ま、中国四千年の歴史は深いってことで・・・(笑)」

校長:「今月号はお開きと相成ります。皆さん、どうぞ来年もかえるの学校をよろしくお願いいたします」


 
Special Thanks
夫の人近影
今回、資料を整えて下さったのはGARAさんちの夫の人です。また漢文の訳注も手直ししていただきました。その節はどうもありがとうございました。


それではみなさん、また来年お会いいたしましょう!

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